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パン作りをする人のためのパンキッチン

バーミキュラで簡単美味しい、新麦パン作りを調査

家庭でパンを作る教科書としてもはやスタンダードとなった『「自家製酵母」のパン教室』『少しのイーストでゆっくり発酵パン』(パルコ)などの著書がある、人気パン講師高橋雅子さん(「わいんのある12ヶ月」主宰)。11月9日、新麦を使ったパンレッスンが行われた。場所は東京・自由が丘のクオカスタジオ。クオカでは九州から北海道まで、夏から秋へかけて北上していく新麦解禁日に合わせて、全国の新麦を販売してきた。

10月20日に解禁されたばかりの、北海道産「新麦春よ恋」(江別製粉)を使って、リュスティックとカンパーニュの2種を作る。

今回用いるのは、メイドインジャパンの鋳物ホーロー鍋バーミキュラ。本格的なオーブンや発酵機がなくても、このお鍋があれば誰でも簡単においしいパンが作れる。


「春よ恋」を愛用する理由。
まず新麦についての説明が高橋先生からあった。 「作るとき、新麦だっていうことはあまり気にしなくて、普通に作って大丈夫です。水の量もほとんど変わりません。春よ恋をいままで使ってた人にこそ新麦を使ってほしい。農作物なので、毎年コンディションがちがうんですよ。いつも使ってると、毎年少しずつ変わってるのがわかる。『今日は水を吸うな』『伸びやかだな』とか。できれば、使う粉の種類をひとつかふたつに決めると、わかりやすくなるでしょう」

著書でも再三登場する「春よ恋」。高橋さんがこの品種を愛用する理由とは。

「春よ恋はイースト、自家製発酵種、ホシノ酵母パン種どれとも相性がいい。春よ恋はオールマイティ。なんでもおいしくできるんです。30~35℃で発酵させるのも、冷蔵庫でゆっくり発酵させてもいい。ベーグルのような加水が少ないパン、リュスティックみたいな加水が多いパン、どっちにも向くんですよ」

ボウルに材料を入れスケッパーで5分混ぜる。粉っけがなくなったらこね台の上に出してさらに2分こねると生地がつながってくる。そこから発酵をとる方法は、バーミキュラを利用したとても簡単なもの。

「オーブンペーパーに切り込みを入れて、お鍋の中に敷いて、このまま火にかけてしまいます。弱火で3分。高温にするとイーストが死んでしまいますので気をつけてください。鍋があたたまったら、このヒートキーパーに入れて40分。ヒートキーパーがなくても、毛布の中に入れたりしても代用できます」

「あとはオリーブオイルをかけて、指で4つ穴を開け、焼くだけ。なんて簡単なんでしょう(笑)。一次発酵だけなので歯切れがよくなります」

鍋で発酵をとり、焼くときも鍋のままオーブンの中に入れる。バーミキュラは気密性がよく、熱も蒸気も逃さないので、発酵機として利用しようというアイデア。また、熱伝導のいい鋳物のホーロー鍋なので、家庭用のオーブンでもふっくらとおいしく焼き上がる。

ハード系はこねない。

次にカンパーニュを作る。水とイースト、新麦春よ恋、全粒粉、ライ麦、海人の藻塩などをボウルに入れ、合わせていく。 「ハード系はあんまりこねないで。カードで混ぜます。生地を切らないようにしてください。ボウルの中がきれいになったらこね台に出す」

こねている途中だが、生地にボウルをかぶせて10分置く。 「こんなふうに1回置くのをおすすめします。あんまりこねてほしくないんです。グルテンが勝手につながってくれます」

10分後、伸展性が増した生地を引き伸ばすようにこねる。 「1~2分こねればいいんです。ハード系はこねすぎるとおいしくないです」

一次発酵をとるときの道具にも工夫がある。 「発酵させるときは透明のボウルをおすすめします。透明のボウルだと底からの見た目の情報が役に立つんです。いつも見ていると、サインを出してるのがわかる。そろそろ発酵終了ですよ、とか」

バヌトン(発酵かご)に布を敷き、茶こしで打ち粉をふる。
「打ち粉は米粉がいいです。小麦粉は腐敗しやすいので、使っているうちに布地が臭くなってくるんです。米粉だとそんなことがありません。それから、加水が多い生地でも離れやすい。値段は少し高くなりますが」

発酵を終えた生地を「ふろしきで包み込むイメージで」6カ所を折り畳んで真ん中で閉じ、バヌトンに入れて最終発酵をとる。

バヌトンからとりだすのも、オーブンシートを使えば簡単。バヌトンの上に正方形のオーブンシートをのせ、その上から板を重ねてひっくり返す。オーブンシートごとつまんでバーミキュラに入れる。クープを入れたら鍋ごとオーブンへ。

 

クープはなんのために入れるか?

 

「カンパーニュのクープはむずかしいですよね。でも、バーミキュラで焼くとちゃんときれいに開くんですよ。クープはなんのために入れるか? 中から上ってきた蒸気をクープを入れることによってきちんと上に逃がしてきれいにふくらませるためです。ところが、ガスオーブンは熱風で乾燥させるので、クープが開いてもくっついてしまうことがあります。持ち上がる前に上が焼き固められて、逃げるところがなくなって、横から開いてしまいます。うまく上が開くまで、乾いたらダメ。だからお鍋でふたをして焼くのが有効なんです」

できあがったカンパーニュは、完全なアーチを描いて、高くふくらんでいた。クープも見事に開いて、パン屋さんに売っているのと遜色のない出来。パンが作りづらいという新麦のイメージを完全に払拭するものだ。春よ恋の味わいは素直でピュアな甘さを放っていた。

北海道産小麦とバーミキュラ。簡単においしいパンを作れる国産同士のおいしい組み合わせである。

TEXT & Photo:池田浩明

高橋雅子 著書 「バーミキュラ」でパンを焼く

ベーグル専門店「テコナベーグルワークス」(代々木公園)

TEXT & Photo:池田浩明

Profile 池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki

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