広島県三次市の南隣りの世羅町。
ここに、パンデュース(大阪本町)が創業したすぐの頃からずっと野菜を仕入れている山本ファミリー農園がある。シェフの米山さんは先にメニューを決めない。農家から送られてくる季節の野菜を見て。どうやってパンを作るか考える。
「僕がいちばん最初に山本さんから野菜を送ってもらったとき、
たしか1月のことで、大浦太ごぼうが入ってたんですよ。
ごぼうをどないしてパンにしようかなと思ったんですけど、すごくおいしい。めっちゃくちゃ甘い」
普通はパンと合わせないような和の野菜も、素材自体がおいしければ必ずおいしいパンになる。
そのことを米山さんは、日々の実践の中で山本さんの野菜に教えられてきた。
2人はこの日はじめて会ったけれど、野菜の包みを通して会話しあってきたかのようだ。
「山本さんのピーマンを、カリカリベーコンといっしょに、生のままパンにのせて焼いたら、『これなら食べれる』って、
ピーマン嫌いが治った人がいます」
有機栽培の農家だから、掘り出したばかりの野菜も、土を払えば、そのまま食べられる。
ニンジンのおいしさ。若々しい苦み、草っぽい香り、それらさえスパイスのように感じられる。
なにより、甘い。ニンジンを食べたあと、オレンジの香りがしたのでまわりを見渡してみたけど、どこにも果樹などない。そして、気づいた。
それは、ニンジンのフルーティな残り香だったのだ。
山本さんはおいしさの秘訣をこのように言う。
「肥料はぎりぎり最低限を狙ってます。
そのほうがおいしいんじゃないかな。
でも、おかげで失敗ばっかりなんですよ」
エンドウマメの畑を見る。虫にやられて、もう出荷できないのだという。
農家にとって何よりつらいことのはずだが、そうしたリスクも厭わず、有機栽培、ぎりぎりの肥料しか与えない農法を貫いている。
温室の中にズッキーニが育っていた。
黄色い花を先端に咲かせ、ぴかぴかと輝き、張りのある姿は、内側から生命力を漲らせているようだった。
「これ、イタリアンで花がついたままフリットにしますよね」
と米山さん。
「雌花だけ咲いて雄花が咲かないときは
手で花粉をつけて受粉させるんです」
広い畑のズッキーニひとつひとつそれだけ手間をかけ作る。
農家はたいへんな仕事だと改めて思う。これも生で齧る。
口の中でジュースがほとばしり、甘さと、生きている野菜ならではの渋みが広がる。
パンデュースで使う野菜の農家を目で見て、土を手で触って、舌でも感じた米山さんからは自然とお礼の言葉が口をつく。
「いつも、おいしい野菜をありがとうございます」
すると山本さんは、
「いえいえ、おいしく料理してもらって、
こちらこそありがとうございます、です」と。
帰り道、米山さんは山本さんの畑で見たものを振り返りながらこう語った。
「僕らは料理人じゃないから、いろいろ手を加えるのではなく、いい素材を使うことで、シンプルにおいしいパンを作るんです」
パンデュースの哲学を聞いた思いがした。
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名称 | 山本ファミリー農園 |
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電話番号 | 0847-37-2153 |
住所 | 広島県世羅郡世羅町小国4648 |
名称 | PAINDUCE |
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電話番号 | 06-6205-7720 |
住所 | 大阪市中央区淡路町4-3-1 FOBOSビル1F |
TEXT & Photo:池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki