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パン作りをする人のためのパンキッチン

ボウルひとつでシンプルなパン作り。プロも家庭も作りたくなる志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)のスペシャリテ

志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方

日本のパンに革新をもたらした巨匠・志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)の講習会が、「パンの材料屋maman」の主催で8月7日、静岡市で行われた。
この講習会で披露された、志賀シェフのスペシャリテ「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方を今回はレポートする。

キタノカオリがあったから、オ ドゥ ブレは生まれた

キタノカオリイエロー。
北海道産小麦キタノカオリの小麦粉は、あまたある国産小麦でも珍しいほどに、黄色い。
カロチノイドという色素がもたらす、酸化によって失われやすいこの色を、オ ドゥ ブレは見事に保つ。

キタノカオリという名前が一般に知られるずっと前から、志賀シェフは着目。
オ ドゥ ブレはその名を知らしめるのに大きな役割を果たした。

「VIRONのバゲットだと、フランス産小麦を使っているので、内側がクリーム色に焼けますよね。
ああいう色の内相を作りたいと思っていたとき、この小麦に出会いました。
キタノカオリは、水と粉を混ぜた段階でもすごく黄色くて。
この黄色いのでリュスティックを作ったらいいんじゃないかと思って、これができました」

志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方 手で混ぜる

驚くべき独自の混ぜ込み法。水分量も多くほとんど混ぜない?

ミキサーは使わない。
ボウルに粉と水と塩とイーストを入れて手で混ぜる。
水分量の多さは驚くべきものだ。

志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方
「115%でも入りますが、今日は安全に105%。
キタノカオリは水がどんどん入ります。
それがおもしろくて、虜になりました。
仕込み方は僕のオリジナル。
ほとんど混ぜないで、水和させただけ。
粉っけがなくなったら、まわりについたのも落として、これで終わりです。
あとはパンチでつなぎます」

驚きである。
底からかき上げるように手を使い、混ぜはじめてものの3分ぐらいだろうか。
まだなめらかでない状態で、もう手混ぜは終了というのだから。

志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方

キタノカオリは、水分の吸収力が違う

キタノカオリは特に、水分の吸収力が高い品種である。
「水が105%も入っていると思えない。
普通の粉ならどろどろでしょ。
キタノカオリは入るんです」

キタノカオリの特徴は、食感でいえばもちもち感。
もちもちか、そうでないかは、でんぷんの組成のうち、アミロースが多めなのか、アミロペクチンが多めなのか、そのどちらかかで決まる。

「キタノカオリはアミロペクチンが多い。
もち米といっしょです。
でんぷんが水を吸って、ぷるっとなっただけ。
アミロース・アミロペクチンのたった2、3%のちがい。
他の粉ではこうはならない。
植物は不思議です」

この日、パンチは20分おきに4回行った。
「パンチで、グルテンの方向を合わせていきます。
カードですくいあげて、ひねって落とす。
これだけでいいんです」

志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方
志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方

1回目は、まだぶつっと切れて、カードから落ちていくようだった。

志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方
志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方
時間とともなめらかさを増し、4回目にはつややかで、伸びよく、なめらかな生地になっていた。
ミキサーの力でグルテンを作らなくても、水和とパンチで自然にグルテンができる。
これは、キタノカオリイエローを保ち、粉そのものの持つ風味を消さないためにも、有効な方法である。




最後のパンチから3時間40分後(発酵時間は発酵状態によって異なる)に分割。
くっつきやすいので、たっぷりと粉をふったキャンバス地の上に、ボウルをひっくりがえして、生地を出す。






ベンチタイムもホイロもない、即焼成

ここからの工程も衝撃。
分割したら、ベンチタイムもホイロもなく、即焼成に入る。
四隅をひっぱりだして、生地の形を四角く整えたら、上下から折り返してたたみ、スケッパーで切って分割。
切りっぱなしのまま布取りした板に置いてオーブンまで持っていき(この会場はオーブンが離れたところにあった)、窯入れする。

「カットしたら3分後にオーブンに入れないと、くっついちゃいます」


志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方
会場となった「鈴木学園 中央調理製菓専門学校」の地元、静岡の特産しらすを入れたオ ドゥ ブレも。
生地の上にどばっとしらすを広げ、豪快に折り込む。
「僕はしらすが好きなんです。
くじらが魚を飲み込むみたいに、がーっと一気に食べます」
と会場を笑わせた通り、惜しみなく混ぜる。
旬の食材に即応するライブ感覚と気前よさも、シニフィアン・シニフィエの魅力のひとつだ。

志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)パン講習「オ ドゥ ブレ(キタノカオリのチャバタ)」の作り方

プロも家庭のパン作りでも真似することができた。オ ドゥ ブレ

256℃で14分焼成。
(今回は50gと小さめだったので焼成時間は短かったが、店では120gで17分。)
黄色い色をしたオ ドゥ ブレが焼きあがる。
甘く、香りよく、みずみずしい。
その印象はキタノカオリを握ったおにぎり。
好きな具材をはさんでサンドイッチも最高だし、料理に合わせても和食・洋食を問わない。

ミキサーやドウコンディショナーなどの設備もいらず、ボウルひとつでできるオ ドゥ ブレは、ベーカリーはもちろん、家庭でパンを作る人、カフェやレストランの自家製パンなどにも採用され、キタノカオリの魅力をより多くの人に伝えることになった。

「このパンをメインに据える人が増えました。
みんなに真似してもらって、ありがとうございます」

シニフィアン・シニフィエ
創業以来、パンの前衛であり、ハイエンドでありつづける。自家培養発酵種(天然酵母)や微量イーストによる長時間発酵などで、発酵の大いなる可能性を引き出し、まったく新しいおいしさや、人の健康に資するパンを作り出す。
オンラインショップあり。
http://www.signifiantsignifie.com
パンの材料屋 maman
静岡市にある、パンを作る人目線の材料屋さん。「新麦」など顔の見える小麦や、かわいいラッピング用品も充実。見ているだけでもわくわくする店。
http://mamansizuoka.wixsite.com/maman
Profile 池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki

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