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松戸市の人気店ツオップのヨーグルトライを調査!

 前回に引き続き、神戸で開かれた「チャリティ製パン講習会」。 伊原靖友シェフが披露されたメニューより、松戸市の人気店ツォップのヨーグルトライを紹介する。

千葉県松戸市の人気店ツオップのヨーグルトライ

千葉県松戸市の人気店ツオップのヨーグルトライ。 ドイツパンをたくさんの人に食べてもらいたいという熱意が、この酸っぱくないライ麦パンを作らせた。

「ホイロの時間を短くしないとライ麦パンの味が酸っぱくなります。
短くすると旨味が減るので、別の形で補おう。
そういう考えで、ジャーマンライサワー(サワー種)を入れたのと、香りを足すためにヨーグルトを入れてます。
ホシノ酵母は麹が入っていて酵素量が多くなるので、その分、甘みが増える(酵素がでんぷんを糖に、タンパク質をアミノ酸に分解する)。 旨味を作ることによって、お客さんが食べやすい味に仕上げています」

ジャーマンライサワー、ホシノ酵母、ヨーグルト、レストブロート(老麺)と、実に4つの種を入れて複合的に味わいを作っている。

狙っている発酵状態から逆算して水分量は決める。 「前日仕込みで硬い生地を作るのは、酵素量が多くて、ゆるみやすいから。 考え方を変えると、ゆるまないとまずいっていうことになりますよね(十分に糖化されていない状態)。 リーンなパンはあえてゆるめて、甘くします」

ホシノ酵母液種を管理するための安価な道具。 かき混ぜながら温度管理できる専用の機械を購入せず、同じ工程を安価に実現している。 「液種はエアレーションをかけて、管理をしています。 エアレーションって金魚を飼うときに空気を出す『ぷくぷく』あるでしょ、あれです。 水の量も元種に対して2倍じゃなくて、2.2倍と多めに入れています」

ヨーグルトも乳酸菌なので、種として使える。 甘くなるが、酸味は増えないので、日本人の舌に合う。 カスピ海ヨーグルトを使う理由もユニークで、合理的だ。

「カスピ海ヨーグルトを使う理由は、普通のヨーグルトを買うと高くなるから。 ふじっこさんで元種を買って、牛乳を注ぎ足してヨーグルトを作っています。 そうすると、牛乳の原価だけで作れる。 ヨーグルトの乳酸菌はラクトース(乳糖)がないと動かない。 パンの発酵で酸っぱくなることはないんです」

種という少しむずかしい概念について、伊原シェフはやさしく説明してくれた。
「ライ麦を入れるとき、粉で入れずに、ライサワーで入れると、またちがう味になります。
種を複雑に考えないで。
種も生地なんですよ。
残した生地を入れると中種になるし。
種と生地をあんまりわけなくていい。
種は乳酸菌から見た言い方で、生地は酵母から見た言い方」

手ごねには、メリットがある

パン屋さんはミキサーで生地を作り、家庭では手で混ぜる場合も多い。 しかし、手ごねにはメリットがあると言う。

「ヨーグルトライ以外の他のライ麦パンは手まぜで作っています。
フックをビーターにしてミキサーで作るのと、手まぜで作るのは、やわらかさちがう。 早く混ぜるとやわらかく、手で混ぜると生地が締まる。
ビーターだと90%でどろどろ。手で混ぜると90%でも100%でも入る。ゆっくり混ぜたほうが加水が多くても生地がしっかりします」

種を自家培養する場合、どうしたら酸味をうまくコントロールできるか。 この考え方について、ケルンの壷井シェフが教えてくれた。

「酵母と乳酸菌の活性がどう上がるか。
生地温度が約40℃に達すると酵母は弱体化しはじめますが、乳酸菌はもっとも活性化します。温度を低めにすれば、酢酸の働きが活発になり酸っぱくなるし、高くすれば乳酸菌の働きが活発になり酸味はまろやかになります。
種が不安定になる要素はいろいろありますが、まずは生地の温度管理をきっちりすることが大切です。
あと、酵母は好気性、乳酸菌は嫌気性なので、酸臭の度合いや発酵力の状況によって種継ぎを増やすか、空混ぜをしてみる等の対処も必要ですね」

ミルフィーユはヨーグルトライ生地と具材をはさみこんだ調理パン。 「ライ麦パンを食べてもらうための食の提案をしても、おうちでやってくれる人は少ない。 それでミルフィーユという調理パンを作ることにしました。 野菜や肉、チーズを入れたり、具材をオールインワンにして焼き込み調理します」

今回の講習会では、イチジクチョコ,かぼちゃ栗の2種類を披露した。

「かぼちゃはルクルーゼで無水調理。 蒸しあがる。 切らずにホールのまま窯に入れます。 きっかけは、スタッフの女の子がかぼちゃを切るの大変だったから。 やってみるとそっちのほうがおいしかった。 さつまいももそれでおいしくできます。 ルクルーゼがないときは、食パン型に入れてふたして焼いてもいいです。 ゆるいかぼちゃはぐずぐずになりやすいので、半分に切るか、ふたをちょっと開けてください」

分割したヨーグルトライの生地を綿棒でのばし、その上に具材を重ねる。 さらに生地をのせ、また具材をのせというふうに交互に重ねていく。 「成形は簡単です。 伸ばした生地に具材を重ねるだけです。 このパンができたおかげで、プレーンなライ麦パンも売れるようになりました。 試食にもミルフィーユを出します。 プレーンなパンをいくら試食に出しても、お客さんがおいしいと判断してくれないんですよね」

いまではツォップのヨーグルトライはたくさんの人に知られる人気パンになった。 ライ麦パンとチョコレートと白イチジクの間にはすばらしい相性がある。 栗とかぼちゃもこっくりとしたやさしい甘さでヘルシー。 簡単においしいだけでなく、パンの食べ方のヒントにもなる。 昼食にはツォップのレシピによる、塩麹漬けのローストポーク。

TEXT & Photo:池田浩明

Profile 池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki

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