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パン作りをする人のためのパンキッチン

酵母作りを科学で簡単にわかりやすく。堀田 誠氏の講習を調査(後編)

前回「酵母作りを科学で簡単にわかりやすく。堀田 誠氏の講習を調査(前編)」につづいて、パンを科学的に、そしてやさしく教えてくれることで評判の堀田誠さんに、酵母という生き物について学びます。酵母の生き様が「見える」ようになると、パン作りがもっとおもしろく、楽しくなるでしょう。

今度は、酵母の増え方について教えてもらいましょう(2017年9月6日、Happy Cooking 東京本校)。この知識も、生地のふくらみ方を考えるとき大いに役立ちます。

酵母はどうやって増えていくのでしょう

発酵にかける時間が教えてくれます

「酵母はどんなふうに増えていくかわかりますか? 出芽(しゅつが)で増えていくんだ。出芽って、文字通り芽を出すこと。お母さん(母細胞)がぽこんと芽を出す。芽のほうを娘細胞って呼びます。酵母はよい条件では90~120分で1回出芽します」

つまり、90~120分で酵母は倍になります。これを知っていると、いろんなことがわかってきます。

「レシピを見るとき、90か120という数字が隠れていませんか? たとえば『60分発酵→パンチ→30分発酵→分割→成型→2次発酵』という工程だったら、『120分後に成型したかったんだな』って見えてきませんか? 酵母が倍に増えてから2次発酵するからぐいっとふくらむんだね。
 3時間発酵だと2倍どころか、4倍を目指したんだなってわかりますよね。レシピの裏に酵母の考え方が潜んでいて、2次発酵させるタイミングまで何時間かけてるの? っていうふうに考えればどれぐらいの酵母の量になるのか見えてきますね」

発酵温度で生地を操れる?酵母の活動が活発になる「元気ゾーン」

酵母の活動がもっとも活発になる温度は25℃~35℃。これを堀田さんは「元気ゾーン」と呼びます。この数字を上手に利用することが、よくふくらんだパンを作るうえで大事になります。

「ふわふわパンはどんな温度帯で発酵させる? 25℃~35℃まで大丈夫なはずなのに、なんで32℃とかを嫌がるの? ふくらみに影響するからダメだよって言われるでしょ? なんで? 僕が修業時代、ずっと考えつづけたことです。
 元気ゾーンで捏ねあげたら、酵母が元気になり、熱を発します。32℃で捏ねあげると、元気ゾーンを早く超えちゃうので、酵母が弱ってくる。こっち側(30℃以下のゾーン)で組むと、熱を発しても、35℃まで余裕がある分、ガスをたっぷり入れて作れる」

パンチや分割の意味も、「元気ゾーン」を知っていれば理解できます。

「パンチを常温ですれば、熱い空気を逃がしてあげられる。そうすると、温度が上がっていても、またこっち側(30℃以下のゾーン)に戻ってくるよね。
 生地を広げてあげても、温度が下がります。だから、これ以上いったら破綻する(元気ゾーンから外に出てしまう)という温度で分割できれば、また元気ゾーンのはじまりに戻ります。
 2次発酵のときは温度をめちゃめちゃ上げますよね。(もうこれ以上酵母は使わないので)弱ってもいいからガスを絞り出してくれ、ということです。
 逆に、発酵時間を稼ぎたい人は23℃にします。熱を出してもまだ余裕があるからです」

ところで、堀田さんの師匠であるシニフィアン・シニフィエの志賀勝栄シェフによる長時間発酵のバゲットは、「元気ゾーン」ではなく、18℃近辺の温度帯で作られます。これにはどんな意味があるのでしょうか。

「18℃は地下室のイメージ。ゆっくりふくらんでくれる温度です。昔のバゲットは、軽さを求めてなかったはず。そんなイメージ。(25℃~35℃より)冷たくすると、おいしくなる(風味の成分が豊かになる)代わり、ふわふわはなくなります」

パンチしながらの元気ゾーンでの発酵、それよりも低い温度帯での長時間発酵。酵母の生態から考えると、両者は別々の活動パターンだとわかります。

人気のパン講師、堀田誠さん

『パンは何発酵?』なのでしょう。

「『パンは何発酵?』って聞かれたら、みなさん、なんと答えます? お酒を作るときも酵母が必要でしょ? 焼いたパンからもアルコールの匂いを感じますよね。学問的には、『アルコール発酵』というのがキーワードになるんです。パンの発酵というとみんな『ふくらむ』という考えになりますが、学問的にはアルコール(風味の元)を出すのが酵母の特徴ということになるんです」

「一方、酸素があるとき、酵母は『呼吸』で活動します。酸素のない環境だと僕ら死んじゃうけど、酵母はスイッチが変わってアルコール発酵になる。パンを上に上げたいときは呼吸で作ってください。呼吸をさせてあげると二酸化炭素の発生が3倍になる。上にふくらませたいとき、二酸化炭素は邪魔者。だから、パンチして、空気を入れ替えますよね」

● 酸素がないとき → アルコール発酵
● 酸素があるとき → 呼吸

呼吸の場合、アルコール発酵に比べ3倍の二酸化炭素を作り(パンがよくふくらむ)ますが、アルコールは作りません。反対に、アルコール発酵の場合、二酸化炭素の発生は少ないものの、アルコールを作り出すため、パンの風味は増します。

「ふわふわパンにしたい人は呼吸でパンを作りましょう。重たくていいから味のあるパンにしたい人はアルコール発酵で。呼吸だとおいしいものはちょびっとしか出てこないよ。酵母が酸素不足でもどうにかして餌を食べようとするとき(アルコール発酵)、香りや旨み成分が出ますが、ふくらみにくい。酵母を悪い環境に追い込むとおいしいパンになるかもね、っていうのが、アルコール発酵と呼吸のちがいを考えてわかることです」

ちょっとむずかしい話でしたが、がんばって読んでいただいて、ありがとうございます。私たちの目に見えない酵母の世界のことが少しわかると、レシピの見え方が変わってこないでしょうか? ぜひおいしいパン作りに役立ててください。

Profile 池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki

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