お店で見かけるパンを私らしく表現するなら、そんなふうにアトリエでパンを焼いています。大それたことを言えるほどではないけれど、家庭製パンの魅力は“家庭製パンだからこそ出来ること”にあります。でもまだまだ経験値が足りなくてレシピを考えるのに苦労することばかり。
4月~5月アトリエメニューは「フランボワーズのクグロフ」を。或るパティスリーのフランボワーズのクグロフがとても印象的で、パンで再現しよう!と閃いたのは良かったけれど後々首を締めることに。‥20回も試作するなんて。
クグロフってどんなパン?
クグロフについて簡単に説明すると、お菓子のクグロフは卵もバターも砂糖も多く、流動性のある生地。パンのクラシックなクグロフは、卵とバターで捏ねあげるブリオッシュ生地がベースです。今回は「フランボワーズのクグロフ」をパンで作るのがテーマ。食感や味のイメージはあるから、まずはベースの生地の配合を考えます。
お菓子のクグロフのようにリッチな風味を持たせるならブリオッシュ生地にしたい、でもブリオッシュ生地の手捏ねは寒い季節でなければ(油脂が分離するし緩くて捏ねにくいし)極力避けたい。以前焼いたショコラのクグロフのようにパンオレ生地ベースで工夫できるなら、とまずは試作第1号。
数時間後に出来上がったのは美味しくないパン。ダメな理由は味がちぐはぐで、パンオレの淡白な生地はフランボワーズの華やかな酸味を受け止めきれずに浮いてしまう感じ。でも最初の数回はいつも散々な出来映えなので慣れてます!大丈夫!
自分が求める配合を探りつづけ、増える試作の数
早々にパンオレ生地は諦めて、少しずつブリオッシュ寄りの配合で試作を重ねます。捏ねやすい配合に留めたい。風味を足すには何が必要か。フランボワーズと相性のよいホワイトチョコ(乳脂)は何割入ればお互いの味が引き立つか。バランスを変え試行錯誤しながら、既に試作16号です。普段から試作回数はかなり多いと思うけど、さすがに10回越えると投げ出したい気分に。
そしてまた試作。配合をシンプルに出来ないかと手を加えては失敗、懲りずにパンオレの配合に戻しては失敗の繰り返し。何度作っても”イメージの味”にならない。美味しくないわけじゃないけど、何かが足りない。もう完全に(いつもの)迷路の中‥。
自分の感覚とは全く違った、他者の感想
さまようある日、客観的な意見を求めて試食をお願いしたところ、「食べやすいけど甘くないね。しつこくないから量を食べられるけど甘くないね。」と一言。
うそでしょ?甘くない?砂糖多いしホワイトチョコも入っているのに?が本音でしたが、この時の「甘くない」は本当に的確な、的を射たアドバイスでした。
美味しくないわけじゃないけど〈足りない何か=甘さ〉だった。もともと甘くてリッチな配合だったレシピを、さらにホワイトチョコは倍量に、フランボワーズのオードヴィ、生クリームも増量しました。原材料費を考えると、こわい。でも味がまとまって嬉しい。出口が見えました!
試行錯誤を重ねた先にある、自分らしさ
工程にも気を配りますが、味、食感、後口の良さには毎回頭を悩ませます。試作中盤までは作ってみて、あれ?この味じゃない、ということが多い。それでも模索して試行錯誤を繰り返すのは、パンを焼く以外にも様々な学びを積み重ねられると実感しているからです。結果としてパンを一口食べた瞬間、「おいしい!これ好き!」と感じて貰えたなら、苦労が報われたなぁ、良かったな、と思えます。
このフランボワーズのクグロフ。不思議な気もするけど、やっぱり”私らしいパン”に仕上りました。アトリエで試食するたび感じられるのも、嬉しいことです。
TEXT: Yumiko Sanda / PHOTO: Pain Kitchen
ブーランジェリーシェフとの交流も広く、様々な活動されています。
さんださんは、「自宅で作るパンのいいところは、自分で選んだ安心の素材で自由に焼き上げたパンを大切な人と食べるひととき。」 と言います。
日々、教室を運営しながら自らも学び、パンに触れる暮らしの中での気づきや、パンを楽しむ皆さんへ伝えたい事を綴っていただきます。
アトリエへちょっと立ち寄るような気持ちで、ご覧くださいね。