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ベーカリー&レストラン沢村がとる発酵方法/バゲットづくりを調査!

東京はもとより、大阪、名古屋、福岡へも出店。いまどんどん系列店を増やし、各地で大人気の「ベーカリー&レストラン沢村」と「THE CITY BAKERY」。2ブランドの統括シェフである森田良太さんの講習会が、アルファフードスタッフ(オーガニック材料の輸入・販売)主催で開かれました。

沢村といえば、バゲット。焼き色も味わいも濃厚なあのパンがどんなふうに作られるのか? 今回は目の前でシェフ本人が作ってくれるのですから、興味津々です。

老麺で発酵。昔ながらの方法を取る理由

沢村のパン作りの基となるのは、老麺。古い生地をとっておいて、翌日の発酵の元とする昔ながらの方法を、いまなぜ行うのでしょう。

「うちのパンはほとんど長時間発酵。スタートの菌を少なくしないと、発酵オーバーになってしまう。0.0何%というイーストって微量計でも正確に測れません。老麺の状態だと、含まれる菌の数が多くないので、測りやすい。老麺には若干の乳酸菌もいて、パンの香りが複雑になります。通常、フランスパンの余りでやりますが、ぶれやすいのでうちは前日に老麺を仕込んでいます」

老麺は、「SAWAMURA BASIC」(自社専用粉。粒子の粗さと灰分[高いほど味が濃くなる]の高さが特徴)100%に、サフのインスタントドライイースト青(ビタミンCが入ってないタイプ)0.4%、カンホアの塩、モルトで作って、翌日まで冷蔵発酵させます。
小麦粉は実に5種類をブレンド

5種の小麦粉、そして水をブレンドするこだわり

小麦粉は実に5種類をブレンド。この配合にはどんな狙いがあるのでしょうか。

「SAWAMURA BASICがベースとなり、これに何を加えるか? で考えます。ブリアンス(千葉製粉)はフランス産の小麦。タンパク値の低いフランス産をあえて使って冷蔵発酵すると、歯切れのいいバゲットになります」

「スムレラ(アグリシステム)は、北海道産できたほなみ主体。石臼挽きなので風味が強い」

「ニシノカオリType60(平和製粉、三重県産。0.60と高い灰分値)を入れることで、皮が香ばしく、日本人が好きそうなせんべいのような風味に仕上がります」

「麦創(瀬古製粉)は、灰分1.00を超えていて、小麦の粒の中でも皮にいちばん近い部分『アリューロン層』を取った、まっ茶っ茶の粉。これはグルテンを持たないので、隠し味程度です」

水53%に加えコントレックスを20%入れるのは、硬度を調整するため。フランスの水に近づけています。

「コントレックスでグルテンを強くし、だれにくくさせます。コントレックスは硬度(ミネラル)が1400以上あります。日本の水は硬度が50~60しかないので、歯切れを出せない。カンホアの塩を使っているのも、ミネラル分が高く、グルテンの引き締め効果があるからです」

ミキシング

最初に水と老麺を入れて、ボウルの中にしばらく置きます。

「ミキシングをあまり長くしたくないので、吸水で老麺を溶かしてふやかして、そのあとに、粉と塩を足します」
L4分とかなり弱めのミキシング
L4分とかなり弱めのミキシング。

「ローで4分まわしたところ。しっかり混ざりきってない、ざらついた状態です」
この状態でミキシングを止めて20分休ませたあと、「ボウル内パンチ」を行います。
この状態でミキシングを止めて20分休ませたあと、「ボウル内パンチ」を行います。

「ミキサーを1周だけまわします。いま水和されて馴染んだ状態。酵素分解がはじまるところ。ここで、だれたグルテンを引き締めます。そうするとなめらかな生地になる。ばんじゅうにあげて、17℃で16時間発酵をとります」

通常、冷蔵の温度(5℃)などで行われることが多いオーバーナイトだが、沢村は高め。時間も12時間などで行われることを思えば、長めである。

「しっかりガスを発生させて、香りや旨味の成分を作ります。長時間発酵だと、旨味が強く、内相も穴ぼこだらけになる」
長時間発酵だと、旨味が強く、内相も穴ぼこだらけになる
発酵後の生地。表面に注目してください。
しっかりガスを発生させて、香りや旨味の成分を作ります

「バゲット表面に気泡ができていますね。ここで発酵状態をどう見極めるかが重要です。今日は発酵が遅かったので、さっき常温に出しました。表面が網目状になっていると、ちょうどいい。つるんとしていたら、まだ発酵が若いということ。生地をめくると、網目状になっています」
バゲット表面に気泡ができていますね。ここで発酵状態をどう見極めるかが重要

やさしく生地を扱う。常にソフトタッチで

350gで分割します。このときの注意点。

「生地を出すときもやさしく、つぶさないようにゆっくり。やわらかい生地なので手粉は多めに。粗いものを使ってください。細かいと、生地が粉を吸ってしまいます」

やさしく扱うのは、成形も同様。

「気泡を潰さない成形をします。やさしく1回でのばします」







森田さんはのばすときも、綴じ目を押さえるときもソフトタッチ。

バゲット生地を使った派生で「ショコラ大納言」を作る。細身の中に大納言とドロップショコラを入れたもの。こちらは100gで分割。

「バゲット生地を長めに分割します。手前から2/3を折る。折った部分に大納言をのせます。しっかり生地と具を密着させないと、ふわふわとなっておいしい食感になりません」



「それを折り込んで、その上にチョコをのっけます。のっけたらもう1回折って、閉じます」

ホイロは27℃で短時間。

「バゲットのホイロは20~30分。30分も入ることはないです。分割の段階で発酵は終了しているので、ここでは発酵ではなく、休ませる意味です」

このバゲットは料理の最高のパートナー

バゲット、ショコラ大納言の窯入れ。ショコラ大納言はSAWAMURAの「S」の字に。

「高温で一気に20分で焼き上げます。長くオーブンに入れるとどんどん皮が硬くなります」

焼き上がり。


沢村はベーカリーレストラン。このバゲットは料理の最高のパートナーです。

「料理と合わせることを考えたら、本当は主張しないほうがいいんですけど、うちのは主張がある。料理人には、『それに負けない料理を作れよ』って。パンは本来、脇役ですが、弱すぎてもダメだと思います」

森田 良太

1979年、埼玉県出身。ユーハイム、新横浜シャンドブレでの経験を経て、2009年株式会社フォンスのベーカリーシェフに就任。軽井沢にベーカリー&レストラン沢村をオープン。2013年にはニューヨークに本店を構えるTHE CITY BAKERYの日本進出に関わり、現在は両ブランドの計11店舗のベーカリー部門をシェフとして統括する。

ベーカリー&レストラン沢村

http://www.b-sawamura.com

THE CITY BAKERY

http://thecitybakery.jp

アルファフードスタッフ

有機JAS認定オーガニックの小麦粉や砂糖、ナッツ、ドライフルーツ、チョコレートなどの販売を行う。家庭用の少量パックの商品もあり、使いやすい。楽天市場等で通販もできる。
http://www.alpha-food.co.jp

Profile 池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki

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