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パン作りをする人のためのパンキッチン

森本まどか流、生地作りにおける3つの技

人呼んで、「国産小麦の母」。
札幌でATELIER TABLIER」(アトリエ・タブリエ)を主宰する森本まどかさん。北海道産小麦でパンを作ることがまだあまり馴染みのなかった頃から、はるゆたかなどを使ってパン教室を行っている。彼女の都内初となる講習会が、45日、埼玉県蕨市の(株)愛工舎製作所CAPホールで行われた。森本さんの講習会で特に印象に残った三つの場面を書き留めたい。

キタノカオリを使ったバゲットの生地作り。

森本さんは、すべてのパンを手ごねで作る。手ごねは、なかなかの重労働。少しでも力を省けるよう実践と理論でつちかわれた工夫が凝らされていた。

まず、ボールに粉と、パン酵母(とかちの酵母)とモルトを溶いた水を入れて混ぜ、まとまったら作業台でこねはじめる。手の腹の部分で生地を抑え、前方に向けてすべらせていく「縦伸ばし」。できるだけ前へ滑らせたら、伸びた生地を手前に向かってくるくる巻き込む。

「グルテンの塊をほぐすような感じでこねていきます。生地に穴が開いてきたら、硬くなっているということなので、もんでください」

本当に生地をもみほぐすように指で押して、ほぐしていく。森本さんにはまるで、生地がいまどうしてほしいか見えるかのようなのだ。

しばらくこねると、生地を広げると膜状になるまでグルテンがつながった。そこから「叩きごね」を行う。テーブルに叩き付けては丸めるという繰り返し。

「一回、生地の腰を切ってください。『せっかくつながったのになんで?』って思うかもしれません。でも、そのほうが空気をいっぱいとりこめる生地になります」

空気を生地にはらませることによって、ボリュームを出すことを狙っているのだ。

最初にほぐし、そのあと叩いた。これは、なにを意味しているのか?
「グルテンのつぶつぶをいかに早くほぐすか。それがこねなんです。ほぐすと同時にグルテンがひも状になっている。叩くと今度は膜になる。そういうイメージです」

こねている途中ではあったが、森本さんはいったん手を止めた。生地を丸め、乾かないようにボールをかぶせておく。

「家庭の手ごねは、休みタイムをとってください。休ませると、生地が劇的に変化します。勝手に生地に水が入り込む。休ませてるうちに洗い物とかをしましょう」

20分後、休ませた生地は、ボリュームとなめらかさを増していた。

「こんなふうにつながっています。ほっとけば勝手に生地は自分でグルテンを作ってくれます。汗だくでこねる必要ないんですよ(笑)」

この段階で、まだ森本さんは生地に塩を入れていない。それはこねる行程のいちばん最後。

「塩は、塩水にして後入れします。そのほうが生地になじむんですね。最初に塩を入れると硬くなるので、力を入れてこねないといけなくなります。お家で、そんなに叩かなくても、伸びのいい生地ができる方法です」

驚いたのは、バゲットを窯に入れる前のクープ。

「ナイフに水をつけて底まで着くぐらいぐいぐい刺してください。これぐらいやらないと、家庭のオーブンでクープは開かないです。かみそりをぶっ刺して、寝かせてシュー」

森本さんは、本当に生地を2つに割るぐらいの勢いで、かみそりを入れていく。家庭で、パン屋さんのようなバゲットを作りたいという、生徒さんの思いになんとか応えようという気持ちが、こんな大胆な方法を編みだした。

生地へ混ぜ込むバターは、冷えた状態で薄切りに。

シナモンロールはバターをたっぷり使ったリッチな生地。手ごねで生地にバターを入れるのはたいへんな作業だ。溶かしてから入れるほうがなじみやすいと思っていたら、森本さんのやり方はまったく逆だった。

「バターは冷えた状態で薄切りにしたもののほうが有効。バターがやわらかくなると、空気をふくんでくれません。菓子パン生地はきめの細かいほうがいいので空気を多く入れたい。溶かしてしまうと空気を抱き込めないので、直前まで冷蔵庫に入れてます。手の熱で溶けないほうが生地になじみます。液状にしないで、バターが可塑性があるうちに。溶けないバターは層の間に入っていきますが、溶けると滑り落ちる」

生地を手で触らないように、スケッパーで細かく切りながら混ぜ込んでいく。生地が荒れてきたら、前述のほぐす作業を行う。

「叩きつづけると穴が空きます。強くなって生地が張ると伸びが悪くなる。もう伸びないと思ったらほぐしてください。手でこねるとこういう工夫ができますよね」

北海道のドイツパン。

正二郎カンパーニュは、森本さんが行っているパンの販売でも人気の一品。ルヴァンリキッドに加え、少量のインスタントドライイーストと、サワー種(ライ麦から起こした種)も入れる。通常はドイツパンに使うこの種をなぜカンパーニュに入れるのか。

「サワー種はほんの少量で(1%)、ほどよい酸味になり、フラットな味に奥行きが出ます。ドイツに行くと、北海道に似ているなと思います。じゃがいもが取れて、ビールがおいしい。北海道にもドイツパンは合うんです。ドイツのパンは生活のパン。日持ちがするので、ずっと食べられる。そこらへんに転がしておいても硬くならず、中のほうがしっとりしています」

春よ恋を使うこのパンの名前には、すてきな由来があった。

「春よ恋はいちばん好きです。ほんのり甘くて、もち感があって、ふんわりふくらむ。正二郎は春よ恋の育種家の方、池口正二郎さんをリスペクトして名前をつけました。ひとつの品種ができるまで10年もかかります。私たちは打ち粉を簡単に捨てちゃったりするけど、小麦畑に行くと思いが変わって、大事にしなきゃなと思ったり」

「畑の真ん中に立つことを体験してほしい。パンに対する考え方が変わります。パンを習うために東京に通った時期もありますけど、パンを作る上でいちばん大事な原料は、私の住んでいるところから40分のところにあります」

今回の森本さんの講習会は、そうそうたる人たちがサポートした。「ポリパン」の創始者である梶晶子さん(happyDELI)、Fermentation (フェルマンタシオン)の茂木恵実子さん、ヒヨリブロートの塚本久美さん。森本さんが、後につづく人たちに与えた影響力と勇気の大きさを、それは物語るものだ。

森本さんのパンとともにいただくランチ。春のサラダ(春キャベツ、からし菜、ほうれんそう、菜の花など、塚本さんがお店のある丹波からかついできた春野菜を使ったもの)、ローズマリーチキン、レバーペースト、ベーコンは大多摩ハムを使用。

TEXT & Photo:池田浩明

URL ATELIER TABLIER(アトリエ タブリエ)
森本 まどか 著書 「北海道の小麦でパンを焼こう」
パン探偵ファイル

TEXT & Photo:池田浩明

Profile 池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki

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